宴のあとで ~前編

しかし、夕べは参った。遠く、平和島での仕事を早々に切り上げて、歌トモと2時間ほど歌ってから、越谷駅を出るまではよかった。忘年会が花盛りの金曜日に、田町から山手線にも座れて・・・上野駅で乗り換えると、成田行きの常磐線も空席のある車両に出くわし・・・最後の北千住では、行列の先頭に並んだせいか、たまたま一つだけ空いていた席に腰を下ろすことができた。読みかけの文庫本を開いて、主人公が普通の恋を取り戻すところまで、すべてがうまく転がっていく感じの夜だった。

サイドボードの隅にしまった『天使の卵』を読み返そうと決めて、手にした文庫本と一緒に静かに瞳を閉じてすぐ、電車が鈍い金属音を立てながら、必死に動きを止め始めた。カラダが右に大きく傾げてから、ガッと揺り戻しを喰らう。そのまま瞼をあげて正面を見やると、黒い窓の外、狭いプラットホームに工事用のフェンスが白く張り巡らされていた。乗降車用のドアは閉まっていて、その上の電光掲示板が、次の駅がせんげん台だと表示している。どうやら停車駅ではないところに止まったらしい。蛍光灯が明るく照らす車内が、落ち着かない嫌な空気に変わっていった・・・。

<つづく>