Merry Christmas! 3

スマホから、カーステレオのLINE入力に挿し込んでいた黒いコードを引き抜き、イグニッションを手前に回してエンジンを止める。窓越しのパドックが静かだ。助手席に放ってある古いスキー用のジャケットは、紫の色が薄くなっていて、かなり草臥れている。その白っぽい紫の袖をつかみ取って、運転席のトビラを開いた。それまでガンガンに効かせていたヒーターの熱が、あっという間に逃げていって、脚の先から冷気が這いあがってくる。霜の降りた朝は、決まって痛いほど冷たくて、北風で荒れた夜明けの方が、かえって優しいくらい・・・。

右足から凍った土の上に降り立つと、スニーカーの底をすり抜けて、氷点下の感触が伝わってくる。「おはよう!」と声を掛けてきたiguchi師匠は、ハイエースに残ったまま。仕方なく「もう少し乾いていると思ったのに・・・」と教えてくれたコースを眺めに、パドックの日向だけを選んで歩き始める。融け出した土が、吸盤のように靴底にへばりついては、何度もスニーカーから足先が抜けそうになる。これから走ろうとする路面の状況がわかる瞬間だ。濡れて光った褐色をさけるように、枯れ草の残った斜面を上って、スネークヒルの縁に立ってみた。

<つづく>