春遠からじ

丸めたチェッカーフラッグを手に、saitoさんがフィニッシュラインの傍に立っている。最後の10分も、あと一周しかないみたいだ。このままでは、なめらかにフープスを駆けるCRF150RⅡを、視界の真ん中に置きっぱなしで終わってしまう・・・。フープスで先に行かれた分を、いつもなら取り戻すはずの高速コーナーも、まともに加速できるラインは一本だけ・・・CRFのリヤタイヤで撒き上がる泥つぶてが、ゴーグルのレンズに音を立てて弾ける。その後はインを外さない赤いマシン、迫るにはこちらも同じところをたどるしかない。続くロングテーブルトップジャンプ・・・空中で近づいた車影が、着地から、アウトに向かって傾斜のついた急な右コーナーを抜けて、ダブルジャンプを跳び出す頃には・・・また離れている。

スネークの入口。ただひとつアウト側のラインを回る間に、融けた氷が泥に雑ざった、すべりやすいイン側にKXをねじ込んでいく。それでも、アウトから立ち上がるCRFのラインまでは届かない。そのまま縦に並んで、ワダチからスネークヒルを上り始める。ここでの加速はKXに分があるけど、あともう少しのところで、直線が折り返す・・・okano師匠とryoの視線が落ちる下り坂で、アウトの縁にできた“いびつ”なバンクに乗り上げてみせるのが精いっぱい。結局、最後までiguchi師匠の背中を見て、saitoさんのチェッカーを受ける・・・右手を返してコースから出ていくと、ジャージの下で汗が噴き出してきた。見上げればうららかな陽が、竹林の上からパドックをやわらかに照らしていた。

<つづく>