春遠からじ 3

<1/15の続き>

ryoの右手に絞り上げられて・・・全開になったKXが、ひときわ高い音を響かせ、スネークヒルを上っていく。下り坂に切り返すと、音をひそめて駆け下り、2連ジャンプの先、最後の右コーナーの途中から、またけたたましく叫び出す。聞いているだけで何だか満ち足りてくる、いい音だ。ホームストレートでも、豪快な開けっぷりは・・・口には出さないけど、やっぱりKXが恋しいんだろう。4スト250cc単気筒がぶちまける、がさつな破裂音に混じって、細くて固い音が伸びやかに、バラバラの長さの直線をつないでいく・・・狂おしいばかりに。

初めて着けるニーブレースを、何とかモトクロスパンツとブーツの間に収めて、のんびり屈伸しているところに、しびれた両腕を抱えたryoが戻ってきた。勢いはよかったから、度を超えてはしゃぎまくったのかもしれない・・・ずいぶんと早いご帰還だ。気持ちとは裏腹、ざりままに「ちょっと太ったよね?」と笑われるたるんだカラダは、正直だった。しばらく腕をぶらぶら振り続けてから、ようやくエンジンを止めて、地面に下ろした左足を軸に、右足を大きく後ろに跳ね上がると・・・勢いあまって、KXが左に倒れかける。

<つづく>