春遠からじ 4

そんな挙動にも抑えが利かないほど腕が上がってしまって、うまく力が入らないらしい・・・あわてて右足を蹴り、前かがみにカラダを伸ばすと、左足だけで踏ん張って、ハンドルバーをまっすぐに支えなおす。ゴーグルを外したヘルメットの奥で、薄桃色した頬がふっくらと紅潮していた。その肌に汗が光っている。

踏み出した左足と、差しのべた右手を引っ込めて、戻ってきた緑色の愛機ではなく、CRF150RⅡにふり返る。右手でハンドルを掴み、左手がサイドスタンドを外す。うまく走れなくて当たり前・・・テンポラリーなマシンと程よい言い訳を用意できる気楽さが、殺気だったフルサイズの強者に交じって走るには、都合良いはずだったのに・・・その“思い”は、すぐに後悔させられることになった。

相変わらず、まっすぐに加速する車体は、一周もしないうちにずしりと腕にもたれてくる。とにかく重たい・・・。その割には、低いギヤで右手を煽ろうものなら、目標を見失って猛進する。もちろん、ひとつ高いギヤで走ればいいのだけれど、しっかりと外側からマシンにカラダをあずけて走らない“いい加減”なワタシは、何度もCRFをアウトバンクの端に追いやろうとする。KXやRMなら、それでも内側を向いてくれるのに・・・まるでヤツに叱られているようだ。ryoのことを笑っていたはずのワタシが、ryoよりも早くパドックに帰ってくる・・・それも右腕をパンパンに膨らませて・・・。

<つづく>