春遠からじ 9

苦手なスパインからダブルジャンプ。日陰になったスネークには、インベタで入っていく・・・。

コーナーを曲がるたび、後ろを振りかえりながら走り続ける。いつまでも消えない野太い音は、外装のプラスチックがまだ艶々している、#2のCRFが吐き出していた。最終コーナーを抜けてスタート地点に戻っても、コースから離れることなく、KXの細い高音に覆い被さってくる。火照ったカラダが、フープスのコブで何度もカチ上げられて・・・先に音を上げたのは、師匠のほうだった。“ハードサス”になじんだカラダには、不揃いのジャンプが散らばるMX408は、ツライようだ。少しずつ遅れ始めて・・・コーナーひとつ分離れ、ちょうど短い直線でお互いを正面から眺められるくらいになったところで、CRF150RⅡが勢いを止めた。

師匠の居なくなったコースを一周だけして、かつての“デカバンク”のひとつを右に回り、コースから出ていく。そろそろお昼も近い。ゆっくりとパドックに向かいゴーグルを外した先、来るはずのない濃紺のハイエースが、受付横に停まっている。iguchi師匠だ!愛機CRF150RⅡは無事、直ったのだろうか・・・控え目にした排気音で近づいていくと、丸顔をさらに丸くするように笑って、眼が細い線になった。その後ろで、真っ黒にうごめいているのは・・・クッキー。一緒じゃないときがないくらい、この“二人”は仲良くココにやってくる。のぞき込もうとしたフロントガラスに、ギラリと光が反射していた。

いつの間にか、にぎやかになったお昼休み。パドックは、トニーの武勇伝で大いに盛り上がる。試乗会とは言え、革ツナギも持たずにロードレースのサーキットへ行って、ナイロンのジャケットにGパンで200km/hを出すなんて・・・アンタぐらいのもんだよ!バッキリ決めたインストラクターに交わされたって・・・普通、スイッチは入らんだろ?無気になってマシンを寝かせて、あわやハイサイド・・・両足がステップを離れて、大の字に開く。身振り手振りで騒ぎ立てる彼に、みんな腹から笑い声を上げている。

・・・気がついたら、ジャージをはだけて、上半身は裸のまま。暖かなほうへは、すぐに慣れるらしい。暑くも寒くもない、さらりとした空気が、笑い声とともに空へ上っていく。

<つづく>