タロ追憶編 ~後編

きっと、弱ってきた自分が許せなかったんだよね。だから、シロに唸ってみせたんだよね。吠える声はかすれ気味で、上の歯と下の歯が当たっては、カチカチと音を立てている。何で吠えられているのかわからないシロの困った顔に向かって、吠える、吠える・・・。ひとしきり吠えて満足すると、腹ばいになって眠るのが、いつしかタロの日課になっていた。

海を見せてあげられなかったこと、MX408に連れて行けなかったこと、最後の散歩でのんびり歩いてあげられなかったこと・・・ちょっぴり心残りはあるけど、ガラスフレームに収まったタロは、素知らぬ顔だ。一眼レフの描写力もあってか、触れてしまうぐらい傍にいるように思える。風呂に入れてあげられたこと、オシッコを漏らしても怒らなかったこと、そして、ryoの指にかみついても許してあげたこと・・・最後はかなり大目に見てあげられたんじゃないのかな?あれから、もう2年・・・過ぎ去る日々は、どうも足早だ。

命の“恩犬”シロと折り合いが悪くなってきたのと時を前後して、玄関の外にでもなく、部屋のほうにでもなく、灯油のポリタンクがおいてある壁に向かって、吠えるようになったタロ。冗談で「ミロが迎えに来てるのかな?」と話していたけど、そうだったのかもしれない。そんなミロも見ていたのかどうかはわからないけど、最期は、すっかり止めてしまった鼓動をもう一度だけ動かして、ワタシが帰ってくるまで待ってくれていた・・・。

帰宅したワタシの手に触れて、ようやく安心したのか、ゆっくりと鼓動が薄れていって・・・息をしなくなった。目を開けてこちらを見ている姿は、ただ横になっているだけみたいだ。首元まで掛けられた薄青のタオルケットも、上下に動いているように見える。コタツの脇で横になっていたタロのことは、まだはっきりと思い出せる。