ナノハナ! 1

我が町、杉戸にも温泉がある。出来たばかりの『雅楽の湯』は、46℃の天然温泉かけ流し。田んぼのど真ん中に、純和風の平屋造りが忽然と現れて、最初はちょっと驚かされた。イバMOTOの帰り、いつもなら『湯ったり館』に寄るところを、今日はちょっとしたご褒美に“温泉”だ。宵闇の中、行灯に似せたほのかな灯りが軒下にぶら下がって、辺りは真っ暗。駐車場に入ると、どこかひなびた温泉宿にでも来たみたいな感じがする。下駄箱に靴を入れて、そのカギを受付に預けると・・・換わりにバーコードの付いたリストバンドを渡してくれる。それを左腕にはめて、大浴場に続く渡り廊下を歩いていった。

熱めの“ナトリウム塩化物温泉”は、いわゆる鉄の匂い。サビた感じのぬめりと味が、皮膚にまとわりついてくる。カラダを温めてから、ガラスの引き戸をゆっくり開いて、外に出た。濡れた足下が冷たくて、思わずつま先立ちになってしまう。露天の湯船へ急ぎ足で近づいていくと、吐く息が白く落ちる。もうもうとした湯気を分けて、湯の中にカラダを沈めてやる。肩まで浸かっていると、すぐに顔が上気してくる。ただ、このまま上がってしまうのももったいない気がして・・・ryoと揃って、すぐ横にある“寝湯”にカラダを横たえる。裸眼のはるか向こう、空には薄い灰色の雲が帯のように太くにじんでいた・・・。

<つづく>