ナノハナ! 3

<2/19の続き>

湯船に寝ころんだまま瞳を閉じると、灯りに滲んだ夜空が消えて、数時間前の明るい光が差してきた。耳の奥のほうで、キャンキャン吠えるような、KX85Ⅱの乾いた排気音がこだましている・・・。

使うグリッドは“半分”で、3クラス混走。とは言え15台のフルグリッドは、両脇にぴたりとマシンが並び、やはり興奮する。コースの上では、フルサイズのオープンクラスが烈しくトップ争い・・・それを目で追いながらフロントブレーキを握り込み、ハンドルバーに上半身を押し当てるようにして、KXを前後に揺さぶってみる。張り出した左ひじが隣のライダーに軽く触れて・・・心臓が高鳴る。「とにかく前に出ないと」・・・グリッドのどこかに紛れているはずのokano師匠の台詞が脳裏に浮かぶ。シバパパやryoだって、そう思いながら、第1コーナーを見つめているにきまっている。

一組目のフルサイズマシンに、タケさんのチェッカーフラッグが舞う。グリッドに収まった15台が、待ち切れずにエンジンをブン回す。いつもなら“Hell Or Hallelujah”の追い風が吹くはずなのに、今日はまったくだ。saitoさんのMCも、全然耳に届かない。聞こえてくるのは、カン高い直線的な音だけ。気の早い連中に、スターターを務めるiguchi師匠も右腕をグルグルまわし始めた。コースがクリアになって、“15秒前”のボードを両手で支える師匠。10秒後、ボードが“5秒前”にひるがえり、排気音とともに、さらに鼓動が高まる。口の中が乾いて・・・瞬間、息が停まる。

<つづく>