ナノハナ! 9(完)

「初めてだよね、表彰台」はっきりとした口調が、耳の後ろから聞こえる。

「ん?どうした?」振り向きざまに、眉根を寄せて答える。言っていることが、よくわからなかった。

「呼ばれたとき、ヘンな感じがしたんだー。はじめはピンと来なかった・・・ゼッケン357、って言われてもねぇ」

「そうかぁ。そうかもな。いや・・・たぶんそうだ」ようやく意味を理解した。ryoのマシンCRF150RⅡは返すことのない、永遠の“借り物”。空の彼方で、いつものように斜に構えて・・・muraも笑っているだろうか・・・。

「テッペン・・・じゃあなかったけどね」少し照れた笑顔が、満足できるレースだったことを物語っていた。

スタートしてしばらくは、サンデークラスの先頭を走っていたんだから・・・大したものだ。muraもきっと褒めてくれるんじゃないのかな?昨年暮れのレースは、乗り慣れない4ストの重さとトルクに手こずって、おまけにマディな路面で無茶して転んで・・・散々だったのに、何だか成長している。「ロクに練習もしていないのに」・・・表彰台での台詞が、もう一度口をついて出てくる。淡い夕映えの彩りに、一番星が小さく、きらめいていた。