グリッド前にて

スターティンググリッドの後ろを通ってコースの入口まで、KXをまっすぐに走らせる。ハンドルを握る両腕にコツコツと細かな振動が伝わってきて――数日前の雨はどこへやら――土は固く締まっていた。左に小さくUターンするようにしてコースへ入っても、すぐには走り出さず、第1コーナーにフロントタイヤを向けたままエンジンだけを止める。ここから見る景色は、何も変わるところがない・・・最終コーナーでうなりを上げて留まるフルサイズのマシンが居るほかには・・・。ようやくサンドセクションを抜け出たそのマシンが、目の前を通りすぎるのを待ってから、もう一度、銀色の華奢なキックペダルを踏みつける。火の入ったエンジンを、そのまま右手で吹け上がらせ、クラッチレバーを握ると同時にブーツの底でシフトペダルを踏み込み、そこから左の人差し指を無造作に開いて伸ばす――一瞬、沈み込んだリヤタイヤが、乾いた土の表面を履くようにして、緑色の小さな車体は揺れながら、第1コーナーに向かっていった。