蒼き背を ~1/2~

「・・・これじゃあ、レースに出ちゃいけないなぁと思って」

小さなカラダから右腕を伸ばして、突き出したコブシをぐるりと前に倒すようにひねって・・・ひらいた左眼が、やさしく笑った。

モトクロスのスタートは、わりと過激だ。横一列に並んだ30台のマシンが、いっせいに第1コーナーを目指して猛進する・・・。ヒジやヒザ、カラダが触れ合うのも。めずらしくない。それはプロの世界だけじゃなくて、アマチュアのサンデーレースでも同じこと・・・もちろん、程度の差はあるけれど。ただ、草レースでも、レースはレース。ひとたびグリッドに収まれば、フロントタイヤの先、スターティングマシンの錆びたバーが動き出すのをひたすらに待つ――そして、バーが落ちれば、あとは右手をひねって、第1コーナーを見つめるだけ。そのとき右手の甲は・・・手前、自分の方を向いているはずだ。真っ先に抜け出た1台を頂点にして、残されたマシンが、その後に続いていく。