回想3~8月28日 2/2

秋の気配とやわらかな空調、ほどよい職場の緊張感で、何とかごまかせていたのも、午前中までだった・・・。いつもなら甜麺醤を焦がした強い香りが食欲をそそるはずなのに、運ばれてきたジャージャー麺も、なんだか味気ない。光があふれる中を歩いて事務所に帰ると、さっきまでからりと気分の良かった空気が、とたんに冷たくあたって、カラダがゾクゾクしてきた。首のまわりも火照りはじめて・・・熱がぶり返してきたようだ。

パソコンの画面をながめても、手元の書類に目を落しても、集中力が続かない。イスから立ち上がるのさえおっくうになってきた。もはやここまで、近くにある内科医をインターネットで検索して、また光の中へ。通りを右に行っては戻り、左に行っては戻りとフラフラ歩き回って、結局3軒目、事務所とは通りをはさんだ反対側にある、いちばん近い内科医で看てもらえることになった。上半分を病院名が記された目隠しになっている自動ドアが開くと、すぐに待合室があって、ペパーミントグリーンのソファーが“く”の字をつなげたように10客並んでいて、誰も座っていなかった。その真ん中あたりに腰を下ろし、簡単な問診票にこたえながら渡された体温計で体温を測ると・・・37。8℃。「やっぱり」と思いながら看護士の女の子に体温計を返すと同時に“お呼び”がかかり、診察室のカーテンをくぐっていった。待合室のソファーとおそろいの淡い緑のドレープの向こうで、赤系のチェック柄のシャツにデニムを合わせたアメカジスタイルで、陽に灼けた院長先生がにこやか待っていた。

「お願いします」と声をかけ、丸イスに座る間もなく、「疲れがでましたねー。夏風邪ですね」って・・・まだ何も看ていないうちから、瞬殺ならぬ瞬察。アタナハウチュウジンデスカ・・・イカレかかったアタマが妄想を始めたところで、院長の右手が目の前にのびてきた。指には巨大な木の“ヘラ”、アイスクリームを思い浮かべた瞬間、「口を大きく開いてください」と言われ、ヘラは遠慮なくベロを上から押さえつけた。ただ、それだけだった・・・。

ほかに触診もなく、夕べからのいきさつをうんうん肯きながら聞いただけで、「疲れからくる夏風邪」ときっぱり“見立て”た院長。ここにたどり着くまでの時間の“480分の1”、ほとんど体温計ぐらいの時間で診察室を出されてしまった。渡された「処方箋」を、途中の薬局に見せると、簡単な説明と5種類ほどの薬をひとつ袋にまとめられて、すべてが終わって事務所のビルが建つ歩道に戻る。〆て15分――なのか、はたまた天才なのか――何が何だかよくわからないけど、今はこの院長を信じてみるしか手がない。