やばっ! 8(完)

最初の頂上を越えて、ゆるく曲がりながら下りきった先にある小さな左カーブ。大きくバンクが切り立ったコーナーは、想い出の左カーブ。初めてココを走ったとき、oki-sachi師匠に「モトクロスのコーナーリング」を教えてもらった、大切なコーナー。ココだけは譲れない。音が小さく離れるから・・・確かにryoより速く抜けられている気がする。ただ、ココだけだ。あとは上っても下っても、曲がっても跳んでいても、後ろの音が気になるばかり。RM85LとKX85Ⅱ。アノ頃は“花”にはけして追いつけなかったのに・・・裏の下り坂に続く、逆“くの字”をした左カーブ。山砂の壁と空を隠す木々に、CRFの排気音がこだまする。

緑を褐色に削りとった、豪快な直線が、青い空に延びる。ところどころ、乾いたところがくぼみになっていて、その上を通るたびに、リヤタイヤが空転をはじめ、瞬間、車速が落ちる。空回りしたタイヤが路面に戻ってくると、今度はエンジンの回転が一瞬で落ちていって、85マシンの小さな車体を押し上げる力が消えかかる。多めに吸いこんだ雨水のせいで、際の山砂はゆるんでいて、つまずきそうなくらいだ。大きくなった爆音を引き連れ、勾配を乗り越えて、何とかCRFの前で得意の左バンクに突っ込んでいく。ふっと4ストの爆音が小さくなった気がした。

数周後ろについて、そんな動きをじっと見ていたはずのryo。周回するたび、少しずつ音が大きくなってくる。“その辺り”を狙いどおりに衝いて、大坂の上。KXの失速を逃さず右横へと並び、そこから斜面の頂上を、先に跳び越えていく。「やられた!」そう思った瞬間だ。ほとんど真横を向いたCRF150RⅡが、ワタシの目の前にふさがった。左に流れたリヤタイヤの上、ハンドルにカラダを被せるようにしたryoの、右ひじが大きく映る。逆ハンドルにCRFはすぐに反応して、今度はリヤタイヤを右に持ってくる。しかも、さっきよりも動きが速い。そして、また左。「やばっ!」なすすべなく、左右に振られながら、まっすぐ坂の下に向かっていく・・・「ああっ、やったぁ!」。

ブレーキレバーを握り締めて、ハイサイドを喰らうはずのryoとCRFから離れる・・・と、坂を下り切る少し前で、「福島の病院泊まり」を覚悟したryoの手に、4スト150が戻ってきた。横揺れが収まった車体の上で、フルブレーキングを始めるryo。その赤いテールカウルが、路面が左に折れ曲がる寸前、減速を終えて、左バンクに向かっていった。すっと左手を上げてから、左バンクを抜けると、カラダをひねりながら二つのジャンプをいなして加速を始める。気づけば、また、CRFの後ろを走らされていた。大したもんだ。夏の終わりに、手痛い思い出を残さずにすんでよかった。ココで嫌な思い出は、やっぱ似合わない。