All right CHIBA! 5

<10/23の続き>

長針が真上に帰ってきて、16時ちょうど。隣から聴こえていた“Let me go, rock ’n’ roll”とエンジン音が止んで、ツアーTシャツに黒いジャケットをまとう、同い年くらいの男が目の前を横切っていった。「そろそろ、ウチラも行きますか!」と、シートから腰を上げて、bongoのドアを勢いよくはらう。「ボンッ」と、空気を圧縮する鈍い音が、駐車場に響く。階段を伝って表に出ると、人の塊が、さらさらと動いていた。その後ろについて、うつむき加減に歩いていたら・・・「最後尾はあちらですから」と、誘導の係員に冷たく言い放たれてしまった。見れば通りの反対側から、同じように人の波がつらつらと動きはじめている。殊勝な顔を見せ、列から離れるフリをして、わざと次の波に飲み込まれてみる・・・何となく“ズル”っぽく、最初の波をなぞっていくと、グッズ売り場のテントの横から、背の高いホールの中へと案内された。華やかな飾りも何もない空間の先に、真っ黒な緞帳が落とされている。待ちこがれた派手なステージは・・・その先だ。

緞帳の切れる左端から中を覗くと、華奢なパイプイスが整然と並べられていた。武道館の1階で見慣れた光景は、思っていたよりも奥行きがあって、でもずいぶん小ぶりな感じがする。向かう“A3”は、最前列の左手、いわゆる“ジーン側”だ。アルファベットの列をいくつも通り越していくと、Aエリアから先は係員が立ち、チケットを見せないと出入りができなくなっていた。最後尾でも“アリーナ”感いっぱいの席に満足しながら、二人、ひとまずチケットに書かれた同じ番号に腰を下ろしてみた。「KISS」のロゴが銀色に描かれた幕の裾から、巨大蜘蛛のアシがのぞいている。左右に据えられた画面には、退屈しのぎに「KISS KRUISE」の映像が、繰り返して何度も流される。ホールに響く曲は、フォリナーの“Double Vision”。1970年台後半のオールドナンバーだ。しばらく辺りをきょろきょろ眺めていたryoも、これだけでは、さすがに退屈らしい。予定が30分遅れて、開演は17時30分。これから、たっぷり1時間はある。「ホールの2階でも散歩してくるか」・・・立ち上げるワタシの後ろから、ryoが黙ってついてきた。

<つづく>