All right CHIBA! 6(完)

ひそかに楽しみにしていたkiss仕様のキティーちゃんが並んだ店もなくて、2階は食べ物と飲み物を売っているだけ。外のペデストリアンデッキとガラス1枚で隔てられた空間には、思い思いに時間を過ごすKISS ARMYの姿があふれている。途中、男女ともトイレに向かってできた長い列に驚きながら、ホールの端から端まで、ゆっくりと歩いていく。入ってきた北口とは反対側、南口のゲートは、1階ではなくて2階にあった。とびっきりイカしたエース・フレーリーが、ゲートの脇で、いくつもの携帯カメラに親指を突き出して応えている。さらりとした茶色の髪と小作りな顔。日本人離れした股下が、本家を彷彿とさせる。和製のエースに、これまた日本語を話すジーンが歩み寄ってきた。こちらは本家をかなり小ぶりにした印象だ。そのあとも次から次へ、ニセモノたちが入口をすり抜けてくる。時に目を凝らし、時に笑いながら、そんな彼らを見ていたら17時が迫っていた。気分も出てきて・・・腰かけていた木製のイスを後ろにはじき、ゆっくりホールへ戻っていく。

ホールの席はほとんどふさがっていて、立って歩く人影も、どこか忙しない。スピーカーからひろがるロックのリズムも、少し大きくなってきた。ときおり、ステージからベース・ギターの音が場内に響いては、周りがどよめく。17時を過ぎたところで、「まもなく公演が始まります」と女性の声が・・・。あれ、予定どおりになっちゃった?「上でのんびりしてなくて良かったな」と、ryoと顔を見合わせる。ローディーが刻むバスタムの音、遠くから聞こえる口笛、ふわりと揺れるKISSのロゴ・・・すべてがあの一瞬に向かっているようで、心が騒ぎだす。いよいよレッド・ツェッペリンの“Rock and roll”が流れて、会場が一気にざわめきだした。曲が終わった瞬間、場内の照明が落ちて、非常口を知らせる灯りだけが怪しく緑に揺らめいて・・・左右2基の液晶画面に、バックステージを歩くメンバーが大きく映しだされた。低く唸るベースの音の上で、KISS ARMYの興奮が激しく躍る――。

「All right CHIBA! You want the BEST, you got the BEST. The hottest band in the world KISS!」

ここ幕張は千葉県千葉市。初めて聞くお決まりのMCと一緒に緞帳が落ち、“Psycho circus”のリフがアンプをひずませる。見上げる巨大蜘蛛の背に、ジーンとポール、そしてトミーの三人がきらめき、ゆらめいていた。