片道100kmの贅沢 5(完)

<9/22の続き>

2km上っただけなのに、ノースリーブから出た腕に、風が涼やかに当たる。高低差をつけて国道と平行に走る道は、山肌を削り取るでもなく、自然な弧を描く。激しい起伏は慣らしにちょうどいいけれど・・・200ccの排気量から生まれる力は、上り勾配には少し頼りない。右手をゆっくり開けていっても、回転数は上がらず、マシンを前に押し出す感じが伝ってこない。それを何とかするため、面倒くさがらずギヤを落としてコーナーに入り、立ち上がりで小刻みにギヤを上げて走る。2ストのKX85Ⅱと似た感覚、これだけは忘れちゃいけない。

6000回転から落とさないように、こまめにギヤを選んで走る。通りには食事のできる店が並ぶわけでも、はずせない観光スポットがあるわけでもないから、ほとんど行き交うクルマに出会わない。当然、道の手入れはいい加減、路肩のつるは好き放題に伸びて、ガードレールがどこにあるのかもわからない。いきおい、アウト側いっぱいに立ち上がるわけにもいかず、中途半端なバンク角で、かえってドキッとする。金属のパイプをつなげただけのようなサイレンサーから吐き出される排気が、連続した旋律になって、山肌にはね返る。気がつけば・・・昔のとおりの“リーン・イン”で、コーナーを抜けていた。

結局1台、地元ナンバーの軽自動車を追い越して、国道に戻ってくる。ここから後は、来た道をずっとたどっていくだけ。ひとつだけ、正面に見える空が、先に行くほど濃く沈んでいるのが、気になってしかたがない。「埼玉は雨かぁ・・・」。ここまで濡らさずきたのに、とうとう当たりそうだ。新里、国定と下り、国道17号線のバイパスで利根川を越えて埼玉、深谷、行田と帰ってきたところで、右腕にポツンと滴の感触が伝わった。前を走るクルマのエアコンか?と思ったけど、違った。対向車のワイパーが動きはじめ、アスファルトに黒い染みが延びている。雨の匂いもしてきた。

シャツが濡れそぼつほどに降られることはなく、すぐに路面も乾いて、dukeの速度も変わらない。もう一度、北川辺でパラリとやられても、水の中をdukeが走ることは、ついになかった。庭先に停めてあったBongoの真後ろにタンクを寄せて、ニュートラルを出す。Nのランプが緑色に点灯したのを見てから、右手をイグニッションキーに伸ばす――オドメーターは“00795”、慣らし完了まで、あと200kmになった。