No place for hiding. No place to run.

陽が射して、見る間に霧が晴れた。青い空の下、寝ぼけたように霞んでいた通りの横断歩道が、いつしか白く光り輝いている。その眩しさに、carryのディマースイッチを手前に回して、前照灯を落とす。雨上がり、微風。この時期にしては、暖かい朝だ。「ホント、ハレるとハレるね」、助手席から乏しい日本語で、ryoが話しかける。空が晴れると霧も晴れる――どこか知らない世界へと迷い込んでいた前に、忽然と現れた街並み――きっと川中島でも似たような思いをしたはずと、旧国道4号線で信号が変わるのを待っている間、信玄公と謙信公の激闘をアツく語ってやる。さすがに両雄の名も、川中島の地も知ってはいるらしく、相づちをうっては肯いている。「えっ!?」、霧が払われた八幡原の真ん中で、居るはずのない敵軍と遭遇。その甲冑が目の前でゆらめいて・・・その瞬間、甲越両軍共に、現実を理解できない思いを吐きだしたにちがいない。

夢からうつつに引き戻されて、いつもの道を駅へと歩く。ヘッドホンからは“Love Gun”、ちょうど彼らのことでも歌っているようなポールの声が、耳につく――No place for hidin' baby No place to run――野っ原で隠れるところはないし、逃げ出すこともできない・・・となれば、あとはもう闘うしかない。走り始めた窓から覗く庭先、楓の葉に残る滴へ陽が斜めに当たって・・・濡れた朱色が真っ赤に光っていた。