ただいま! 5

右手を開こうとしても、レバーにうまいこと指がかからない。リヤブレーキを使うのもヘタクソだから、ギリギリまで突っ込んでいけるはずもないのに・・・バンクの縁のはるか彼方に、ざりままとsaitoさんの姿がわかると、ついつい無理をしたくなる。向こうはコチラのことなんか気にもかけていないだろうに・・・自意識が人並み外れて強いのは、モトクロスをやっている連中に共通した性格なんだと思う。何度かバンクを乗り越えてそうになって、あわてながらもなるべくバンクの縁に近づいてから、湿った褐色のスネークヒルにKXのフロントフェンダーを合わせる。旧型の野暮ったいプラスチックに、光がはね返った。

夏でも陽の入らないココは、固くなってしまうことがない。反対に盛られた土のおかげで、すぐにワダチができて、それが鋭く路面に刻まれるようになる。上手い下手がはっきり分かれるワダチ、ミニモトの仲間内でワダチが嫌いなのはワタシだけだ。「溝にタイヤをはめられない」「減速しすぎてフラフラする」「車体を傾けて立ち上がれない」――だいたいこんな柔い理由で、ワダチとワダチの間や、コーナーの一番外側を回っていて、まるっきり置いてきぼりを食う。それでも今日は、外側を豪快に走り抜けられれば、まだ分がありそうだ。アウトは土の壁、そしてカーブは右回り。何とか元気でいられるのは、そのせいかもしれない。

<つづく>