ただいま! 6(完)

てっぺんから望む斜面は、のこぎりの歯を立てたよう。どこをどう走っても、ワダチに入って下りるしかない。それでも、どうにかして平らなところを走ろうとして、斜面の下をほぼ直角に折れる。赤茶けた壁すれすれ、右端から大きく回り込んで、砂の少なくなった“サンドコーナー”に右手を少しだけ捻る。tomobeさんが大好きなコーナーは、コースで一番苦手にしている“左”コーナーだ。

苦手な“左”、そのイン側のワダチを嫌って左にラインを変えた後ろから、白いリヤフェンダーを光らせたCRF150RⅡが突っ込んできた。okano師匠だ。イバMOTOの最終戦は、まだ夏の盛り。それからずっとだから・・・一緒に走るのは3ヶ月ぶりになるだろうか。肩と肩とがぶつかって、ヘルメット越しに視線が絡む。もちろん悪いのは、ラインを変えたコチラ。それでも、何かうれしくなって、キックペダルを引っぱりだす右手に力が戻ってきた。

どこにそれほどのチカラを隠していたのか――結局、土を蹴りあげるCRFのすぐ後ろについたままで、チェッカーをくぐる。ヘルメットを脱ぎ、タオルで汗をぬぐいながら、青い空を見上げる。ひと月、季節が逆戻りして・・・10月はまだこんなに快適だったのかと、静かに瞳を閉じる。ただ、吹く風だけは冷たくて、火照ったカラダをほどよく冷ましていってくれる。

遠くのほうから、覚えのある笑い声が流れてきた。tohdohさんとも、ずいぶんひさしぶりな気がする。しばらく会わないうちに、走り方がかなり乱暴になって・・・ワタシ好みになっていた。常連の聞き慣れた声と笑顔に充ちたココは、とても居心地がイイ。瞼を少しずらして、もう一度空を見ると・・・青色に白い光が、眩しく溶けていた。