凍えるような土曜日

だまされたわけじゃないけど、少し甘く見ていた。

何度か狭い路地を曲がってつないで、バス通りを左へ――缶コーヒー1本分の排気量しかないdukeが、ほどほどの勢いでアスファルトを駆け出す。流れるクルマの姿が見えない道で、デジタルメーターの数字だけが目まぐるしく変わっていく。そして、すぐに、ヘルメットの中でうなった。古びたウインタージャケットの正面は、きっちり首元までジッパーを引き上げているのに、まるで開け放されているかのように胸から下が、一気に固く冷たくなる。陽だまりで暖機していたときは、陽射しの暖かさがジャケット越しの背中にじんわり伝わっていたのに・・・まさか走り出して5分もしないうちに凍えてしまうとは、思ってもいなかった。明日の買い出しついでにひと走り――欲張りにdukeを選んだのは、ちとマズかった。太陽の下、大人しくチャリでも転がしていけばよかった。「凍えるような寒さの土曜日」は、お天気おねえさんが心配性だったわけじゃなくホントのことだった。ひとつ目の信号ストップ、後悔するワタシをよそに乾いた破裂音が路面から跳ね返り、耳の奥に響いていた。