激走・三月までの~ひと月ぶりの練習編~4

<3/7の続き>

ryoが何度踏み下ろしても、4ストのキックペダルは戻ってくるばかり――まあ、素直にクランクが回っているようだから、組み上げた“腰上”に何も心配はないのだろうけど――ただ、あまりに機嫌が悪い。しかたなくCRFのシートの上からryoを追いやり、センタースタンドに立つマシンの左ステップに、そっと左足を乗せる。そこから静かにゆっくりと左足に力を集中して、右脚をシートの反対側へ渡してやる。一瞬、左側に傾げるようにふらつくCRF。センタースタンドをかましたままで跨ぐのは、いつまでたっても慣れてこない。左右のステップに立ちあがり、マシンがどちらにも動かないのをカラダで確認してから、一気に右脚を下に振り抜く。ボッ、ボボッ、ボボボーッ――あっさり“一発”で、せき込むようにして、エンジンがうなりを上げた。

すぐにスロットルをryoに預けて、Bongoの荷室に入って、ニーブレースとモトクロスパンツを抱える。風の音が遠くなった空間は、ちょっと暖かくて、外に出ていく気持ちをくじいてくれる。冷たいカラダをゆるませるように、揺れるクルマの中で外をうかがっていたら、ryoが「ココを開けろ」と目配せしてきた。荷室の後ろを跳ね上げると、開口一番、「マフラーから、火、吹いてる」――どうやらアフターファイヤーしているらしい。景気よく破裂音を吐き出すサイレンサーを見ていると・・・ときどき、橙色が舌を出す。両手に抱えた着替えをさっとカゴに戻して、さっきと同じ格好で外に出る。風が吹くと、音がゆれ、炎が伸びる。そして、ryoの右手に合わせて、その炎がうごめく。消える気配はないけど、ただ、燃えて大きくなる風でもない。

「後ろ、気にして走れよ」とryoを送り出し、「CRFが火を吹いてるみたいなんで・・・見ててもらえます?」と、スネークヒルに向かうtasakiパパに声をかけて、もう一度着替えをやり直す。デニムを脱ぐと、放熱効果のあるアンダータイツが、北風を受けて、一気に冷たくなった。

<つづく>