初夏の軽井沢 10

浅いけど、固くしっかりしたウォッシュボードを駆け抜けると、大きなくぼみをなぞるように、左に大回りしながら下り、くぼみの底から上っていく。そして、上りきった先にある小さなテーブルトップを境にして、コースはまた下り、ささくれた右のヘアピンが待っている。まったく一息いれる暇がない。陽射しも強く、広々と開放的で、路面が白く飛んで見える。目の前を走られると、起伏もコーナーの入り口もわからなくなるほどに、土煙がまき上がる。ラインに転がり込んでくる石をよけながら、すぐにシフトアップ。2スト85エンジンに半クラッチで喝を入れて、落としたギヤを掻きあげる。ここの短い直線も、平らに見えて実はゆるく上っている――山間のコースを、排気量の小さい2ストエンジンで走り回るには、左脚を懸命に動かし続けなくてはいけない。スタンディングに加えて、この忙しさ・・・左ヒザも周回を重ねるたびに、しんどくなっていく・・・。

先週までそこにあったテーブルトップジャンプはなだらかに削られていて、直線がストンと落ち、すり鉢のようにすぐ左へと上りはじめる。緑のはがれた山肌に弧を描きながら、急勾配がせり上り、頂点で右に折れ曲がる。開けなきゃ上らず、下手に開ければすべり出す――ギヤを落とせばエンジン回転ばかりが上がり、ギヤを3速にすると上る力が鈍くなる。「メインジェット、ノーマルでもよかったかも?」と、標準のセッティングで一度も走らなかったことを悔やみながら、痛む左ヒザをかばうように力を加減して、外に向いた左のステップを踏み込む。そして、ここでもひとつ、垂直の段差が待っていて・・・そこを跳んで降りれば、一気に視界が開けて、短い直線の端にステップアップの大ジャンプが現れる。

こんなヒザを抱えていたら、苦手なジャンプの跳び出しは、もっと臆病になる。それが、2連やステップアップや、へんてこな形をしていたらなおさらだ。先週の練習走行でも、ついに跳び乗らなかった“山”の容をしたステップアップ・・・ここをkyo-chanは、赤いCR85Rで軽々と跳びきる。ここを“なめて”いるようでは、ノービスクラスでも勝負にならない。練習走行では一度も試さなかった斜面に、右手は開いたまま、KXのサスペンションを押し当てる――「150だと、ちょっとスロットル戻さないと・・・ヘンに跳び越えちゃう」――ならば、このまま加速して上れば、大丈夫なはず。ryoの言葉を信じて、KXの加速を殺さないように斜面を上がり、そのままフロントから、斜めに“離陸”する。2スト85マシンの軽い車体が、ふわり舞い上がった。

<つづく>