初夏の軽井沢 13(完)

痛みで感覚がなくなった左脚では、ステップに立ち、カラダを支えることができない。第1コーナーからの上り勾配で真後ろに着かれると、第2コーナーと第3コーナーで1台ずつ――あっという間に5番手に転落だ。「ここまできて・・・」、ヒザの痛みよりも、ココロが深く沈んでしまう。奥に向かって離れかける2つの車影。ただ、その影は、高速にならないコースレイアウトのおかげで、小さくならないまま、目の前をチョロチョロしている。気づけば、短い時間で痛みがしびれに変わって、ヒザに感覚が戻ってきた。少しだけ力も入るようになってきた。最後の「すり鉢」を駆け上がり、もう一度気持ちを入れて、前の2台を追いかけ始める。勝負どころは・・・まだ残っている。

もはや一発勝負しかない。覚悟を決めて、ステップアップジャンプに突っ込んでいくと・・・あろうことか“周回遅れ”に邪魔されて、フロントブレーキを握らせられる破目に・・・ひとつ目は空振りに終わってしまった。崩れた2連ジャンプは、うまく行っても後が続かない。狙いをすぐ前を走る1台にして、とにかく同じラインをたどり、曲がり、立ち上がり、跳び越える。そして、最終コーナーにつながる直線で思いきり右手を絞りきる――前を行くCRF150RⅡがアウトバンクに寄っていったのを見て、右手の人差し指で、今度は思いきりレバーを握りこむ。おぼつかない動きで左脚がマシンを倒し始め、向きを変えるのももどかしく、右手を開けて・・・KXのフロントがフィニッシュラインをまたぎ、チェッカーが振り下ろされる。CRFのフロントは、でも、その数十センチ先を走っていた。フィニッシュテーブルの上に、陽射しがまぶしくはじけている。軽井沢の初夏が、今、終わった・・・。