梅雨の晴れ間に~MCオフビ編~2

<6/17の続き>

もうすぐ夏至を迎える午後の街並みは、まったく暮れ時を忘れてしまったように光にあふれかえっている。紹介状が入ったうす水色の封筒を手に、教えられたとおりビルの5階まで上がり、白いアルファベットがきれいに並んだクリニックのドアを開ける。木目調の壁に囲まれたエントランスは、静かで明るかった。正面の受付まで歩いていき、手にした封筒に保険証を重ねて受付の女性に差し出すと、代わりにありふれた問診票がはさまったプラスチック製のボードを手渡された。

考え迷うこともなくすべての質問に答えを書き入れると、すぐに小さな診察室に通され、中で座っている女医さんに、さっき話したばかりの顛末を、同じように伝える。まだ若い先生の机には、パソコンだけが置かれていて、その画面の上、ワタシの話がきれいなゴシック体の箇条書きに変わっていく。左ヒザには触られることなく部屋から出されると、携帯はもちろん、ベルトからメガネまで・・・身につけていた金属類をすべてはぎ取られて、今度は大きな回し手がついたジュラルミンの扉の向こう側へと案内される。黄色とも桜色ともつかない微妙なやわらかい内装色の中に、テレビの医療ドラマでよく見かける、円い筒からベッドが飛び出したような形の装置が構えていた。

装置の脇には男性のレントゲン技師の二人。彼らに言われるまま、ベッドに横たわると、左脚を内側に少しひねったところで固定されて、頭に密閉式のヘッドホンをあてがわれる。耳をすっぽりと包みこむ、ウレタンの感触が何とも心地よい。そこから聴こえてくるのは、坂本龍一の奏でるピアノソナタ。円形の筒の中にベッドのまま首元まで入れられて、瞳を閉じると・・・薄いまどろみの中、スモークレンズ越しに、オフロードヴィレッジの第1コーナーが遠くかすんでいた――。

<つづく>