不楽是如何

生ぬるい湿り気がはびこる東武線の車内。夕刻の帰宅時間は、きまってすし詰めになる。化繊の薄いワイシャツ越しに、背中合わせの女性から、体温がジワリ伝わってくる。天井に付けられた空調はただ動いているだけで、密集した人いきれをかき混ぜながら唸っている。停車駅で扉が開くたび、重たい空気と一緒に人の波が外に出ては、新しい熱のこもったカラダがまた押し寄せてくる。それでも周りに女の子が居ると、わけもなく涼やかな感じがするから、触感なんてずいぶんいい加減だ。垂れこめる湿気に、ちょっぴり甘い香りが乗ってきたら・・・それだけでもう、うっとおしいほど太めの成年男子が隣に来ても、心許せる思いがする。窓の外の夕闇に、街並みがぼんやりと浮かんでいる。その灰色の輪郭を、霧のように細かな雨が、音もなく濡らしていく。梅雨は明けなくても、暦は夏至を越えて夏時間。つかの間、光の時季を・・・いま楽しまなくて、どうする?