想い出の地に 3

外したステアリングステムは、サビが浮いていることもなくて、ネジ山もきれいなまま。シャフトの下にくっ付いているテーパーローラーベアリングにも、濃紺の防水グリスがきれいに残っている。フレームの首に打ち付けられたアウターレースを人差し指の腹でなぞっていくと・・・つるりと冷たい感触だけが伝わり・・・嫌な打痕も何もない。古いグリスをふき取り、両手をグリスでベタベタに汚しながら、サービスマニュアルのとおりにステムをフレームに戻していく。2本の“前脚”を1本ずつ、そのステムに差し込み、アッパーボルトだけを仮留めにして、残りのボルトを規定のトルクで締め付ける。フロントフェンダーと前輪が着いたところで、薄く開けたガラス窓の隙間から、12時ちょうどを知らせる町役場のチャイムが、雨をすり抜け聞こえてきた。

朝に茹で上げておいたそうめんは、すっかりコシがなくなっていて・・・それを、ナスとかぼちゃのてんぷらと一緒に、一気に腹に収める。入ってしまえば、もう何でも変わりはしない。テレビを付けることもなく、さっさと食べ終えると、ガレージに戻ってKXの“後脚”を組みこむ準備を始める。ロッカーアームをグリスアップする前に・・・スイングアームを取り外さないとロッカーアームが外せない作りになっているkawasakiにブツブツ文句を言いながら、フレームとスイングアームをつないだ細いシャフトを抜き去る。摺動部が少し削れているだけで、うっすらとグリスの乗ったきれいな灰色を見せるシャフトに、ちょっぴり安心する。さらにショートパーツを外せば、目的のロッカーアームにようやくたどり着く。そして、2つあるスリーブのうち、ひとつを抜いたときだった・・・。

<つづく>