想い出の地に 4

<7/9の続き>

バイクの“後脚”は、仕事量が多い。小粒でも“大人仕様”のワタシを支えて、ジャンプの着地では、ガツンと音を上げながらも踏ん張り、突き上げるギャップの衝撃は、とことん吸収して何事もなかったように車体を前へとすべらせる。キッズ仕様の85マシンにとって、大の大人を乗せて走るのは、受難でしかない。丸一年、放っておいた“後脚”は・・・pure techの店長に言わせると、それは「まるで、ひどい状態」だったらしい。今は、そのリザーバータンクにも、「RESPONSE」のデカールが誇らしげに貼り付いている。下ろし立てにしか出せない安心感が戻っているような気がして、急いで試してみたくなる。スリーブを抜く前の、そんな浮かれた気分は・・・それからすぐに、両手の間で萎れていってしまった・・・。

右の親指で押し出し、そのまま人差し指と親指でつまみ出したスリーブには、光沢の無い鉛のようなグリスが乗っていた。ステムベアリングと同じ防水グリスを塗りたくっていたはずで、ガンメタリックのモリブデングリスを使った覚えはない。抜き取ったスリーブを古新聞紙の上に落して、ロッカーアームの穴をのぞき込むと・・・くだけて粉々になったベアリングのふちが、細かくグリスに混ざって、どろっとした灰色に光っていた。鉄製部品のどうしようもなく変わってしまった姿に、自分の左ヒザが重なって・・・何となく気持ちがうつむいてしまう。ローラーだけが外れてバラバラになったのならまだしも、これでは元に戻せない。もちろんスペアを揃えているわけもなく、走ろうと決めていた明日、2ヶ月ぶりのお店まで持って行くことにして・・・あっさり整備は中断。いつしか雨も止んで、外のアスファルトは白く乾き始めていた。

<つづく>