想い出の地に 5

<7/11の続き>

「この道、こんなに走らなかったこと、なくない?」

軽トラの助手席から、顔を前に向けたまま、ryoがつぶやいた。江戸川を渡って、関宿から梅郷に抜ける県道。窓から垂らした二の腕に、生ぬるくなった風がまとわりついてくる。誘われた袋田までのツーリングが惜しいほどの日曜日。「予断は許さない」予報だけど、長く空を見つめてきた経験から言わせてもらえば・・・今日、雨は降らない。たぶん日が暮れるまで、どんなに雲行きが怪しくなっても、雨に濡れることはない――肌が、はっきりそう感じている。陽が高く上がり、大人二人で蒸した軽トラが、利根川沿いの農道に下りていく。田んぼの稲がアスファルトの縁を混じりけのない緑色で刷いては、どこまでもまっすぐに延ばしている。この前走った時はまだ・・・水も入っていなかったっけ。

砂町の交差点を右に曲がれば、お店は目と鼻の距離にある。すぐに今度は左へウインカーを倒して、道路際に並べられたKTMの試乗車を避けるように大回りしながら、ゆっくりと駐車場を進んでいく。もうすぐお昼になろうという時間で、他に停まるクルマもない。堂々と真ん中辺りで切り返し、白い枠に合わせてアタマから突っ込む。持ってきたKXのロッカーアームを手に外へ出ると、工場の方から、ワタシを見つけたina-chanが手を振ってくれていた。昨日のうちに事情は伝えてあるから、ベアリングの壊れたロッカーアームを引き渡して、あとは“術式”の確認――周りを温めて、ベアリングを押し出す――ことで頷きあうと、ina-chanは振り返り工場へ。ワタシはryoと連れ立ち、そのまま用品部の棟へと歩いていった。

<つづく>