想い出の地に 7

<7/16の続き>

この先、いつ寄るかもわからないガソリンスタンドを横に見て、軽トラがゆるいカーブを加速する。角に錆色のレンガに囲まれたコンビニが建つ交差点を過ぎて、2つ目の信号。赤信号につかまった。ウインカーを左に倒し、サイドブレーキレバーを引き上げながら、「もう、湯ったり館に寄ることもなくなっちゃったね」。ryoが独りごつ。信号が青に変わり、無駄に広い坂道を、ゆっくり軽トラが上っていく。ryoが走らせるクルマは、いつでものんびりと進む。正面に広がる工場建屋の白壁に、takeさんの笑顔がぼんやりと浮かんできた。さらに陽は、真上に高くのぼり、街路樹が小さな影を落している。「“魔法の券”だからね」と、からかい半分の午後のようで、ちょっぴり気分が出てきたけど・・・KXはもちろんCRFも、遠くガレージの奥。後ろの荷台は空っぽで、何も載っていない。最後の急坂を下り始めると、両脇から伸びた枝葉が視界をさえぎるようにして、軽トラのフロントウインドウを打ちつける。いつもは気に留めなかったこの径も・・・すっかりクルマが通らなくなってしまった。

<つづく>