Riding high! 2

スターティングゲートの小さな留め金が、地面に向かってかすかに動いた――。

瞬間、グリップを外から包みこむようにして握っていた右手が、さらに手前に引かれ、左の人差し指と中指の二本が、引きつけていたレバーをスパッと放す。反応はまずまず、悪くない・・・フロントタイヤの半分は真横にいたryoのCRF150RⅡよりも前に出ているはずが、肝心のKX85-Ⅱはまったく動いていない。あれほどにぎやかに唸っていた2ストロークエンジンが、フッと回転を落した――「まずい、ストールする」。練習走行ではご機嫌だった新しいキャブセッティングは、ただ確認が不十分なだけだった。“uchino仕様”を止めて、一段下げた“針”がよくなかった。気持ちよく吹けていたのは、スロットルを静かに回していたから・・・スタートの“急開”に、エンジンは付いてこなかった。

それでも30年からの付き合い。こんなときに何をすればよいのか、カラダの方がよくわかっている。すぐに左手の二本の指がクラッチレバーを引き寄せ、右手が瞬時にスロットルを戻してから、今度はゆっくりと開いて、半分ほどの開度のところでクラッチを普段どおりにしなやかにつないでやる――そこまで1秒余り。息を吹き返したKXのフロントタイヤが、倒れているスターティングバーを踏み越えて、ようやくレースが始まった。

<つづく>