北の国から

「明日は雨みたいだし、まだ明るいから・・・襟裳岬、行っておこうかな?」

「あと40kmで・・・黄色い看板が目印って言われたんだけど・・・真っ暗で何も見えないんだ」

上陸初日。苫小牧港から国道を南下して、岬を目指すか、ショートカットするか、なかなか答えを出せないでいたのは、初めてのコトばかりだから・・・。結局襟裳岬まで走るだけ走ってから、跳ね返るようにして広尾へ北上。途中、まったく光を失い、道を迷って・・・暗がりの道路端から小さな声で電話をしてきた。

「上も下も、パンツまでビショビショ。カッパ着てても、まったく意味無いんだ」

「ふぅ。やっと和商市場に着いた!これからイクラ丼、喰ってくるんだけど・・・どこだっけ?」

二日目。天気予報どおり、北海道にも激しく雨が降っている。残された関東は酷暑。気温が10度以上も開いた海沿いは、夏には経験してことの無い、道東らしい寒さが続いている。目当ての“勝手丼”の勝手がわからず、携帯から疲労と喧騒と興奮を届けてきた。

「時間が合わなくてセセキ温泉は入れなかった・・・その代わり、相泊温泉!?に入ってきた」

ゴジラ岩って・・・どこにあるんだっけ?」

三日目。天気が持ちなおして、gromはさらに東へ。小さな手の甲にゴジラの人形をうまいこと載せて、眩しそうに夏の光に目を細めながら、写真の真ん中に収まったryo。あれから16年、地図も持たないワタシの記憶は鈍く曖昧で、「斜里側、宇登呂の港の方かなぁ」・・・飛び交うウミネコの羽の白さと空の青さだけが、瞳の奥深いところによみがえった。

「今日は晴れてて、暖かいんだよ!昨日ダメだった国後が見えた」

サロマ湖の宿に到着。ばっちり夕日もきれいだった!」

四日目。二度目にして初の北海道単独ロングツーリングは、前回の道程を反対周りにたどるはずだった。それが少しずつズレはじめて、軌跡には出てくるはずのない地名が聞こえるようになってきた。サロマ湖畔、朝夕の太陽が美しいキムアネップ岬も、そのひとつだ。

「今日も晴れてるよ!とりあえず三国峠に向かいまーす」

「山は雲に隠れて見えなかったけど・・・橋はよく見えた!」

五日目。愛機gromには少し酷な道を選ぶ。快適に流すなら、「dukeを持ってくればよかった」と、今は痛切に感じているはずだ。深く沈んだように台地を覆う緑に、真っ赤な橋梁がまっすぐに浮かぶ。およそ内地では見ることの無い建築美を乾いたまま、デジカメに記録させることはできたらしい。それでも通り道、然別湖畔にあるタウシュベツ川橋梁には、寄り道してくれなかった。

「吹上の無料露天風呂に向かって歩いているところ。これから入ってくる」

道道に看板が出てたんで・・・急ブレーキだよ。とりあえず青の池に寄ってきた」

六日目。ようやく最終目的地、富良野に入る。ryoが言うまでもなく、ラベンダーが香る短い初夏は遠く過ぎ去り、時季は実りの季節。とうきびにメロンに、旬のうまいところを食べ尽くしても、知床のしゃけといくらの親子丼に比べたらかわいいものだ。16年前のあの日、最初に二人で休んだ地には、「青の池」なんて言う新しい名所ができあがっていた。

「降ってないんで・・・これから旭山動物園に行ってくる」

「今、十勝岳の温泉なんだけど・・・どしゃ降り。乾燥室借りて、カッパ乾かしてるところ」

七日目。雨模様を見越して、連泊の富良野から名物動物園の見学に急ぐ。園内をほぼひと回りしたあたりで、空からは雨。このぐらいになると、荒天も慣れたものらしい。しばらく様子を見て、小ぶりになった瞬間を逃さず、ささっと移動を始める。サロマを出るときに薦めた道北が、今は警戒レベルの降雨量だと、明るく教えてくれた。

「今晩が最後だから・・・隣のカフェで何か食べてくるわ」

明日はいよいよ道内最後の移動。夕張を経由して、苫小牧まで下りてくる。一度北に上がって芦別から下がるか、南の占冠から少し上って出るか。富良野から夕張につながる道は、その二通り。あとは天気次第。どちらの道も選択できるような、晴天が広がることを祈りつつ・・・日に二度も三度もこんな話を聞いていると、こちらも一緒に走っている気になってくる。無性に旅に出たくなった。