焼け付く寸前、ギリギリのところで

コンコースへと延び上がる階段、その1段目に右足を載せて、体重がその足の裏にかかるように左足を持ち上げる。“く”の字に曲がった左脚の先が2段目に下りると、右にあった重心は左へと位置をずらし始める。今度は右脚を折り曲げるように3段目へ運ぼうとした瞬間だ、おさらの中にチリリとした痛みが走って、そのまま片脚で踏ん張るチカラがうまく出せなくなった。一瞬で支えの抜けた上半身は、ガクンと大きく左へ傾げる。反射的に右脚が段差を踏みしめるようにして、“左”に残されていた重心ごと、カラダを引き上げていった。

右足と左足、地面から離れている時間が交互に違うから、上るたびにカラダが左右に大きく揺れては、革底のシューズが不規則な2ビートを刻んでいく。もう5日も同じことの繰り返し、ようやくたどり着いた“頂上”で。ふと軽井沢のレースを思い出していた。「まるであの時と一緒やなー」、なぜか関西弁のワタシは、愛すべき2ストロークエンジンに思いを馳せる。じゃじゃ馬のようでいて、実は繊細で線の細い、愛しい女性を思わせる旧き良きエンジンは、あの日、この左ヒザと同じような感じで10分のレースを走っていた。

<つづく>