十五夜

浅草六区に建つドンキホーテ。歌トモの待つその6Fに向かい、すみだリバーサイドホールの足下を小走りで抜けていく。予定よりも30分早く届いたメールには、「着きました」と一言だけ。体調を気遣って30分遅らせたはずの集合時間は、結局元どおりになった。隅田川を渡り浅草へ、スマホを片手でかざす人の群れを避けながら、吾妻橋の上、足を止めて振り返ると・・・わずかに黄色がかった月が、スカイツリーの真横に円く浮かんでいた。

いつもより短い2時間の“歌会”は、ちょうど月食の時間と重なった。34――何か期待できそうな番号の部屋に入ると、よく晴れた東の空にスカイツリー浅草寺が並んで映りこんでいた。窓のついた部屋に通されるのは初めてだ。持っている運が強いのか、それとも歌トモの計らいか。覚えたての一曲を披露し終わると、粋カラーに彩られたスカイツリーの左手で、月が下から欠け始めた。

数曲歌うたびに、二人で窓に近づき、外を覗き込む。半月は、やがて三日月に変わって・・・赤みの差した満月のかけらが、スカイツリーのアンテナのずっと先に、ぼんやりと昇っていった。歌トモのバラードをBGMに、しばし空を眺める。そして、地球の影にすっかり入りこんだ月は、薄く張った雲にくるまれ溶けて、そのまま見えなくなった。漆黒の空に吸い込まれてしまったように。