Ready to Race!? 4

<9/25の続き>

まぶしさの中、談笑している相手はざりまま。左の手首に絡んだリードの先で、大きな黒が飛び跳ねている。その輪郭は、遠くからでもよくわかる。iguchi師匠と、愛犬のクッキーだ。大きなカラダの後ろで、連れ立ってきた嫁さんの姿が出たり入ったりしている。「行けたら見に行くよ」と携帯にメールをくれたのが、木曜日。その言葉どおり、ただ“チームメイト”を励ましに来てくれたらしい。顔を合わせるのはMX408で最後のレースを走って以来、もう半年が過ぎようとしていた。ゆっくり近づいてくる二人と一匹、嫁さんの細い腕には、白いビニール袋が重そうに垂れ下がっている。その中に何本もの栄養ドリンクが、無造作に放り込まれていた。

半年の間、「すっかりCRFから遠ざかってしまった」と話す師匠を、夏の名残が穏やかに照らす。どうにもならない左ヒザに、先の見えてこない“ホームコース”。光の中にいても、口をついて出るのは翳りのある言葉ばかり。目の前には着地の荒れた8つのコブが不揃いに並び、それを見つめる師匠の瞳は、たしかに乾いていた。練習走行が一巡して、いよいよ各クラスの“本番”が走り出す。初めは、フルサイズでも猛者の集まるクラスから――スタートして数十秒、重なりあった4ストロークの破裂音が、大きく右に回りながらこちらに向かってくる。コースにうねる音を追う眼差し。しっとりと輝き始めた瞳の上で、マシンが大きく躍動する。コースとパドックを隔てるコンパネに、師匠の両手が強く食い込む。瞬間、カラダの中で何か弾けた気がした。

<つづく>