Ready to Race!? 5

<10/16の続き>

あふれる音と光、そして師匠の瞳に押し上げられて、グリッドに向かう気分が整った。泥で重たくなったKXの車体を引き起こして、フレームにぶら下がる三角スタンドを外す。ヘルメット越し、鈍い銀色のトライアングルが砂利の上に倒れ、カランと小さく音を立てた。「あっちに行って見てるから・・・頑張って!」そう言うと、スタート真横のメインスタンドへと歩き始めた師匠。その後ろ姿を見送りながら、地面につけた左脚をそろり捻るようにして、右脚を反対側へと渡す。わずか3周、それもゆるんだ泥の上しか走っていない左ヒザに、痛みはない。ただ、ワダチへのトラウマが残されるだけ。そんなココロの奥の弱いトコロを、コースから届く爆音が蹴散らしていく。アタマの上で太陽が、きらめいていた。

<つづく>