Last race 4(完)

<12/19の続き>

やさしく見えているのに思いの外荒れていて、車体が跳ねて暴れる。下り勾配のついたストレート、フロントタイヤを浮かせながら、すり鉢に向かってKXが加速する。CRF150RⅡの後ろ姿は近く、左手を放して伸ばせば触れられそうなくらい。原色に彩られた背中の幾何学模様がはっきりと見える。しかし、ワタシが勝っているのは、このすり鉢を左に回って、ステップアップと続くロングテーブルを跳び上がるまで。竹やぶの脇に延びるフープス、そこから折り返すウォッシュボードは・・・このベテランには敵わない。最後のレースで最後のチャンス。「ここで前に出なければ終わる」――その思いが、トラウマの残る左コーナーのイン側に視線を向けさせていた。

無機質なスプリンクラーが水たまりを作るラインは、誰もが使いたがらない。だから、リヤタイヤを停めてくれるワダチもない。練習走行でも走っていない、このレースでも最初で最後のラインに賭けて、KXのフロントを合わせる。アウトへと遠ざかる赤い車体が真横に並び、正面にステップアップジャンプの斜面が迫る。視界の端、右側から切れ込んできたCRFに一瞬気を取られ、わずかに早く、斜面を跳び出された。でも、まだ負けたわけじゃない。いつもなら右手を緩めてしまうところも、CRFを跳び越さんばかりに大ジャンプ。醒めたアタマが目の前に広がるロングテーブルトップを窺う。そのテーブルトップでもう一度仕掛けるべく、着地してすぐに右手を握りなおした。短い助走を制したKXが、今度は先に斜面へ取りかかる・・・。

力んだまま跳び上がったKXが、少し斜めになって地面に近づいていく。握りしめた右手がハンドルバーを引っ張っていて、フロントタイヤが路面のギャップに斜めに落ちる――「やっちまった」、そう思うと同時に着地したマシンは、大きく一度ふらついただけですぐに直進を始める。まっすぐ前に向いた先に、もうマシンは映っていない。いびつな路面と青い空が見えるだけ。RESPONSEのサスペンションは出来がいい。マシンに助けられて気づけば、4ストの破裂音を従えて、フープスへ突っ込んでいくワタシがいた。こうなりゃあとは、バレないように走り抜けるだけ。ウォッシュボードもていねいに“処理”して、最後のS字コーナーに入る――CRFの排気音は、少し遠くなっていた。