Are you ready?

東京都大田区平和島。東京の南の外れは、向かっているだけで、思わず帰巣本能が働いてしまう。京急線の駅から片側三車線の環七に沿って、すれ違うのがやっとの細い歩道を歩いていく。よくもまあ、こんなに遠いところへ1年間通ったものだと、3年前の自分を今さらながらにほめてみる。辞めてからもつかず離れずの距離感で仕事をもらっている古巣で、勤めていたときは顔を合わせたことのない担当者から、新しい仕事の説明を受ける。打ち合わせは14時30分から。CRF150RⅡの折れたクラッチレバーホルダを直すため、少しでも早く帰りたくて決めたはずなのに・・・。

混沌とした説明は、それでも予想どおりに1時間で終わった。野暮用をすませても十分いつもより早く帰れるはず・・・だったのに、その“野暮用”にたっぷりと時間を使ってしまった。一緒に辞めることをしなかった五十路の同期と、互いの身の上をだらだらと披露しあって・・・気づけば太陽は西の空に消え、宵闇が、通りに並ぶクルマの列に降りていた。来た道を逆にたどりながら、白亜のビルを振り返る。お互い、もう下り坂を駆け始めているんだ。ひどい失敗はしたくないけど・・・悔やむのはもっとしたくない。“アチラ”に呼ばれる前に・・・やりたいことはやっときましょ!と、風に強く息を吐く。