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大きな波を乗り越えたと思えば、横から来た別の波に呑み込まれて・・・右に左に回るようにもがきながら、何とかくぐり抜けて地上に出ると、冷たい雨に歩道も車道も、黒く濡れている。ほとんど平らなところが見当たらないから、すり鉢の斜面の途中に立たされているような気分だ。足元にビー玉を落とせば、ずっと止まらず、そばを走る国道にぶつかり、そのままずっと転がっていく――スクランブル交差点の反対側にある宮益坂下は、狭くてどこも傾いているように見えるから、人の動きも早くてなかなか止まらない。

それでも街並みが縦長に映るのは、下町にはない景観。「山の手」と言われるのもわかる気がする。黒褐色に汚れた板塀が現れたとしても、ここでは“洒落た”民家と形容される。けして「粋な」とは言わない。雨を避けるようにうつむき加減に歩いている後ろから、乾いた笑い声が近づいてきて、一気にすり抜けられた。声の主は、女子高校生。二人組みは小走りでそのまま坂の上へ。歩道にこぼれる笑い声が、駈ける脚のかかとに蹴り上げられては、割れて響く。坂道の途中で、そんな元気に出会えるのが渋谷だ。