princess Sapphire 1/2

「ウチはリボンの騎士みたいにする」

ryoに遅れること数ヶ月、先輩のところには、ちょっと色黒の女の子が生まれた。三度の飯より単車が好きだった二人。まだ眼も開かない赤子を未来の二輪レーサーに仕立てては、紫煙をくゆらせる。原付にヘルメットがないと乗れなくなってすぐ、ポケベルが世にはびこり、クルマはシートベルトをしなくても走れた時代の話だ。同じエンジンを積んだフルカウルのマシンを先輩は選び、ワタシは流行り出す前の“ネイキッド”仕様に、ヨシムラの給排気系を組み合わせていた。

「アタシもバイク乗りたい!って言ったらさ、よしよしって。こっちへ来い!って。ガレージで埃かぶったシートをバッと取ってさ、じゃあこれに乗れ!って」。夢見る先輩とGSX-Rに向かって、「お父さん、何コレ?こんなハンドル、見たことないー!とか言われちゃうんじゃないの」と毒づいたことを、今でもよく覚えている。あれから二十数年、ガングリップのバイクがないわけじゃないけど、ハンドルは昔のまま、ただ左右に伸びている。しかし、その間に変わったことは、たくさんあった。

<つづく>