国境の湯宿

ハザードランプを点けて、減速を始める白い軽自動車。GWも今日と明日を残すだけ、都心から放射状に延びる高速道路には、その中心に向かってクルマが集まりだしている。そんな混み合う車列を尻目に、下り車線をひた走る。渋川伊香保を過ぎると、さらに走るクルマがいなくなり、むき出しのアスファルトが灰色の曲線を描いて、緑まぶしい山裾を北上する。

沼田を越えて、群馬県側最後の出口、月夜野で、左のウインカーとともに高速を外れ、並走する国道17号線に下りる。ここでも北向にハンドルを回して、残雪をいただく武尊山谷川岳を正面に仰ぎ、気分よく都心を離れていく。国を分ける山容が目の前に大きくそびえ、峠を突き抜けるトンネルまであと少しのところで、カーナビが左折を促す。

赤谷湖の畔に品よく佇む宿が3軒。その一番奥にある、白い板塀の湯宿で、GW最後の夜を過ごす。古の舞台を思い描くのに、おあつらえ向きの、ひやり乾いた夜風が流れてきた。