Rain Rainey 4

<4/17の続き>

対向車線を猛然とすり抜け、ドアミラーの隅、右に大きく傾いたマシンが小さく映る。メーカーも排気量もよくわからないけど、そのバンク角だけは鮮やかだ。丸めた背中を斜めに「Walter Wolf」と金文字が走っていたような、そんな記憶を呼び覚ますほど・・・強烈な“深さ”だった。

新入りの歓迎会は、受け持ちが決まってからすぐの日曜日。この手の会社にありがちな「新人歓迎ツーリング」は、日帰りで箱根へ行くことになった。土曜と日曜が休める週末を「連休」と呼んでいたあの頃、その貴重な連休が選ばれていた気がする。それなのにその日、待ち合わせの国府津PAは、雨に煙っていた。

短い橋を渡り終わると、下りながら緩くS字を描くバス通り。カラダを左右にねじったところで、ハンドルを回した幅にしかBONGOは反応しない。空荷の後輪駆動が、粗雑な右足に過敏に反応して、小さくホイルスピンを起こす。フロントガラスの端が曇って、ぼんやりとにじんできた。

今ほど濡れて走るのが嫌じゃなかったのは、ただ若かったから。仕事じゃ後ろに立つばかりの日々、ここは「一泡吹かせてやろう」と、GSX400Xのスロットルを煽り、ターンパイクの料金所から加速する。目の前が空へと延びて、浜松生まれのマシンが、次々とまっすぐにしぶきを上げていく。

ガラスに張り付いたみぞれを、重たそうにワイパーが振り払う。滴は流れずガラスに残り、いつしか雪に変わっていた。タイヤに頼りきっていては、たとえ4輪でも心許ない動きを始める。ただ、それでも転ぶことはないし、凍えることもない。思えば、ずいぶん年を食った。

2ストロークは、その人のΓだけ。上り勾配に光る路面。登坂車線ごと大きなアールを描く道は、4ストロークの400ccに分がある。立て気味にしたマシンの上、カラダを内側に落とすようにして丁寧に曲げていく。悪くない、うまく乗れているはずだった・・・。

<つづく>