Rain Rainey 5(完)

<5/11の続き>

パーシャルのまま回り続けるGSX。いきがってスモークシールドで走る視界は、見にくくゆがみ、にじんでいる。曇り取りに薄く開いた隙間から、冷たく濡れた風が流れ込む。その外側、追い越し車線からヨシムラのサイレンサーの後ろへと、一台のマシンが近づいてきた。すぐに真横に並んだ濃紺の狼は、鈍い灰色に染まる路面に張り付くような角度にまで傾いて・・・ほとんど転んでいるようにしか見えない。驚いてバランスを崩したかけたワタシに、チラリと視線を送っただけで、そのままスルスルとΓはImpulseの前に出た。そして、少しも濡れていない、軽く乾いた音と紫がかった白煙を残して、少しずつ前へと離れていった。

大観山のレストハウスまで走って、ようやく一休み。中に入ると、その人はもう、一本目のショートホープを吸い終わろうとしていた。安物のレインウェアを脱いで、その人の隣の席に腰を下ろし、「参りました」と頭を下げてみた。ゆっくりコーヒーカップをソーサーに戻すと一言、「レイン・レイニーと呼んでくれ」と小さくほほ笑んだ。配属してから数か月、その人が初めて笑ってくれた。背中に金色で書かれたWalter Wolfのロゴは、いつまでも雨の記憶に生きている。