逃避行へ

鎖につながれたままの犬、籠に閉じ込められた鳥・・・。

湿った寒い日ならいざ知らず、じりじりと陽の射す夏日なのに、空調から吹き下ろす風に肌がつめたくなる。大きなサッシ窓には白いブラインドが下ろされて、わずかに天井へとヒカリが抜けているだけ。外の雰囲気は、まったく入ってこない。前後左右で滅多打ちにされるキーボード、不規則な配列に、廊下を進む固い靴音が調子を合わせる。電話も鳴らず、会話がメールに乗っ取られて、話し声はほとんど聞こえない。休憩時間を知らせる機械音だけが、やたらと大きく、構内に反響していく・・・。

せめて外が見えたなら・・・これじゃあ、突然逃げ出したくもなる。首が締まるのもお構いなしに、カラダ全体で鎖を引っ張り続ける犬。籠にカラダをぶつけて、エサも水もまき散らしながら飛び回る鳥。何がしたいのか、ワタシにはわかる気がする。「案外人間も不自由しているんだぞ」、言葉が通じれば彼らに、そう伝えてやりたい。いっそズル休みして、ひとっ走りも悪くないか――こうした選択が手の内にある分、ワタシの方がマシなのかもしれない。