ひと月違いの元同期

今となっては前職と言うべきなのか、以前世話になっていた会社の話。その会社で“同期扱い”されていた奴の話をしようか。どうして“扱い”になるのかと言えば、二人揃って“中途組”だから。世の中がまだバブル経済の「あぶく」の中にあって、会社が嫌になったら、すぐに他のところに転がり込める、うたかたのような日常。二人出会ったのは、そんな時代だ。お互い“前歴”について深く話すことがなかったのは、転職に取り立てて何か強い意志があったわけでないから。ささいな心のゆらぎで会社を辞めて、手の届く中、居心地のよさそうなところを選んだだけなんだ。ただ、その触角は正しく機能していたようで、ワタシは20年、そいつは今でも現役で、その会社に勤めている・・・それが良いのか悪いのかは別にして。

「退職」という字に違和感を覚えるくらい、会社は辞めても、同じ職を続けている。この業界には割と多いケースだ。だから、一緒に飲んだり遊んだりする機会は全く減ってしまったけれど、ひょんなところで、バッタリ出くわすことも少なくなかった。もちろん、そいつから仕事をもらったりすることもあるわけで、二人実に奇妙な世界に住んでいた。ただ、春先からワタシの現場が変わってしまって、そんな偶然にもなかなかお目にかかれないと思っていたら・・・やっぱり同期、引き合うものがあるのか、パソコンから見上げた視線の先に、見覚えのある、もさっとした姿がうごめいた。お互い、今の仕事をやめない限り、同じところをぐるぐるとまわっているわけだが、その軌跡は、もう交わらないと思っていたのに・・・。

カラダに似合わず、細やかな心を持ち合わせる同期は、その細やかさゆえ、体調を崩しては、よく会社を休むようになってしまった。風の噂・・・それでも今日、手を上げるワタシに気がついて笑う瞳は、昔と変わらず輝いていた。こんなブログを「毎日見てるよ!」と言い残して、連れと3人でワタシの席があるフロアを離れていった。入社がひと月遅れの同い年、もう、そう呼べる者のいない“同期”の背中に「ありがとう」と呟く。元はバンドマンの同期だ、オールはムリと言っていたから、いつもの3時間コースにでも誘ってみるかな。ひさしぶりに驚愕の高音ボイスも聴きたくなったし。