お疲れ様 4

“助っ人外国人”を左ヒザに巻きつけ、ベルクロのテープをきつめに締め上げる。今日もウェアは、新調したoneのスプリングモデル。インナーガードの上からペラペラのメッシュジャージをかぶり、KXのシートにまたがろうとしたその時、2クラス分けを知らせるアナウンスがパドックに流れてきた。コースから戻ってきたざりままが、「まだ5分ぐらいなら走れるよ!」と、息の上がった赤ら顔で笑う。いいところと悪いところがはっきりしているけど、結構楽しく走れそうだ。手にしたヘルメットをBONGOの中に戻して、手持ちぶさたに、組み付けたエンジンやラジエターを覗き込んでは、おかしなところがないか金属の表面に指を這わせる。陽に当たっているところがそこだけ生温かく、すべる指先をくすぐる。ヘンなにじみは、ひとつもない。

BAY FMのDJが10時を告げるのとほとんど同時に、キッズたちのマシンが、カン高い排気音を散らして、ひとつ目の坂を上っていく。少し遅れて大人達が、1台また1台とパドックを離れる。クラッチレバーをゆっくりとゆるめて、そのうちの1台、ざりままの後を追う。純正の真新しいサイレンサーが吐き出す、上品でくぐもった音を残してコース脇をスタンディングのままたどっていくと、一足先にスターティングエリアにマシンを運んだざりままが、何のためらいもなく、そのままコースイン。nagashimaパパはわかっていたけど、ざりままのCRFまで、あっさりコースの上に消えていった。「やる気スイッチ」なんて、こんな時にすっと入ったりするものだ。クラッチレバーを握ったままスターティングエリアの上、アイドリングが落ち着くのを待っていると、青い車影が最後のテーブルトップを跳び上がった。ミニモトで青いマシンは、今日はYZの1台だけ。nagashimaパパがそのまま最終コーナーに、小さく翻った。

「何で走れるの?」と、その背中を見るたび、ヘルメットの中でいつも独り言ちてしまう。何しろ隻眼なのだから・・・。左側の視界はほとんど利かないし、ワダチがあると「おっかなくて走れない」とおどけたように笑ってくれるけど、その挑むココロを秘めた走りは、間違いなくアツい。ひとつひとつ、カーブの内側をえぐるように、しかもマシンを暴れさせずに抜けていく後ろ姿の真似をして、結局うまく曲がりきれずに離される。“カチパン上等”の旧MX408では、いつもそうだった。ただ、新しいMX408は、いい加減なワタシの走りにも寛大だ。適当にマシンを傾けながら、雑に右手をひねっても、クンッと向きを変えて出口に向かって加速する。湿りすぎず乾きすぎず、今日の路面は、そんなワタシとKXに分がありそうだ。しばらく後ろですきを窺い、割り込んできたキッズのマシンと一緒、どさくさに紛れてフープスからの立ち上がりで前に出る。隻眼の獅子、その視線を感じながら走るのは、何だかとっても誇らしい。

<つづく>