のろまな果報者
saitoさんが小さく振るチェッカーを抜けて、最終の左コーナーの手前で、砂から砂利の上へとコースを出て行く。速度を落として走る85SXの上、背中がとたんに真夏を感じ取り、透けたメッシュジャージの下で汗がにじんできた。そのままゆっくり受付のコンテナを過ぎてパドックに入ると、すぐ、見覚えのある顔が、並んで大股で近づいてきた。マシンを止め、声をかけるワタシに目もくれず、いきなりしゃがみ込むと、
「結構下まで沈んでるみたいだけどね」
「戻ってくるのが速いんだな、きっと」
85SXのフロントフォークに視線を注ぎ、インナーチューブについたかすかなオイル染みの輪っかを見つけて、二人で短く言葉を交わす。先に立ち上がったuchinoさんの後ろから、kuboさんが話を続ける。「ブレーキで沈んだフォークがすぐ伸びている」というのが、その見立てだ。暑い中、コースサイドでワタシの走りを見ていてくれたらしい。ヘルメットの隙間から汗が滴るのもそのままにして、続きを訊いてみる。
「コーナーの手前でフォークが伸びちゃうから曲がれない、アンダーステアが出てるのと同じ感じだから・・・フォークが入り込むようにして、伸びるのを遅くするといいかもしれない」。kuboさんの“処方箋”に、横でuchinoさんがうなずいている。
こんないつまでも速くならない、いい年のオヤジにも真剣に助言をしてくれるのは、うれしいことに、この二人だけではない。
<つづく>