あの日のR121 3

翳りのない青空は濃い緑の山にかかり、その向こう側からは、白い積乱雲が青を塗り込めるようにわき上がっていた。瞬きをするたびに形を変え、上空へと成長する様は、夏そのもの。ただ、峠に向かう空冷2気筒がガラガラと乾式のクラッチを鳴らしているうちに、雲は黒い雨雲に姿を変えていた。山の天気は油断ならない。すぐにエンジン音よりも低い周波数で、空が鳴り始めた。

<つづく>