あの日のR121 4

陽光を散らしていた木立が、ざわざわと音を立てはじめ、アスファルトは鈍い灰色を濃く沈ませている。スモークシールド越しに見える空はすっかり色を無くして、時折激しく空気を揺らし、閃光が黒を切り裂いていく。トンネルが突き抜けている県境の上は、もう、雨雲が白く煙らせていた。行くあてもなく、気ままに飛び出てきたから、走る装備以外は小さなウエストバッグだけ。レインウェアはもちろん、ウインドブレーカーさえ持っていない。だから・・・こんなところで、雷雨なんかに当たりたくはなかった。

山王トンネルに続く直線、上り勾配が緩やかになって少し開けたところで、ブレンボのキャリパーが大径のディスクプレートを挟みつける。そこから一度反対車線にはらんで、アルミの細いハンドルを左に切る。Uターンは左回りと決めている、右に小さく回って上手く走れた記憶は、ひとつもない。一発でターンを決めると、来た道を急いで下っていく。雷雲になった積乱雲は、すでに後ろにも回り込んでいて、目を細めて見つめていた空が、真っ黒に塗りつぶされていた。そして、右からとも左からともわからない風が、冷たく吹いてきた。

五十里湖までたどり着いて、短いトンネルを越えれば、もしかしたら夏空が手に戻るかもしれない・・・そう自分に言い聞かせながら、かなり粗い速度で、2本のテルミ管から野太い破裂音を響かせ走り続ける。しかし、道が狭い橋を渡り、T字路にぶつかろうとする、その手前で・・・とうとう掴まった。

<つづく>