小さな声援 5

<8/7の続き>

どのワダチにはめるか・・・迷ったのはほんの一瞬だけ。それでも強く踏み込まれたブレーキペダルは、85SXのエンジンを簡単に止めてしまい、すぐにペダルから足を離せないまま、ワダチの途中でマシンは完全に停まってしまった。今度ばかりはエンジンも止まったまま。すぐ後ろで、同じラインを抜けようとしていたCRF150R-Ⅱが立ち往生している。その彼に右手を挙げてから、短いキックペダルを引っ張り出してブーツの底で思いきり蹴りつける。付き合いはじめて日も浅い。エンジンをかけるのにもクセがわかっていないから、気持ち裏腹、キックペダルが何度も空を切る。そんな醜態をアウトから、ざりままのCRFがさっさと交わしていった。これでブービー、申し訳ないけど後ろのCRFは・・・最下位に沈んだはずだ。

さすがに2回目、それもマシンは完全に停止している。レース本番で2度もエンジンを止めてしまっては、いけない。転倒する方がまだ勢いがあるというもの、2スト85ccエンジンに火が入るまで、気が遠くなるほどの時間が過ぎたように思えた。気持ちが折れたのか、ギヤを1速に落とさないまま、どろっとした回転でSXがワダチを抜け出し、フロントタイヤから段差に落ちた。気を取り直すにも、よじれたフロントタイヤがテーブルトップから外へマシンを押しやってしまいそうで、思わず右手が動かなくなる。横に向きかけたマシンをコースと並行になるようにねじって、シートに腰を下ろしたままの姿で加速を始めようとしたそのとき、ゴーグルの隅に、あの小さな手が揺れているのが映った。

<つづく>